いつの時代も、成功を夢見る若きミュージシャンたちは故郷を後にして都会を目指す。台湾の原住民出身のメンバーを中心にしたロックバンド「トーテム」のメンバーたちもまた、郷里を離れて首都・台北で活動を続けている。この映画は、写真家・若木信吾氏がある雑誌の取材で台湾を訪れたことをきっかけに彼らと出会い、バンドの中心である阿美(アミ)族出身のスミンを中心に、彼らの活動を追ったドキュメンタリーである。
台湾には「台湾原住民族」と言われる、異なる伝統文化を持つ10以上の部族の人々が暮らしており、台湾総人口の約2%を占める。国家の近代化の過程では、先住者たちが長い歴史の中で保持してきた民族の伝統や文化が変化を余儀なくされたり、失われたりすることは常だが、それはもちろんここ台湾においても例外ではない。トーテムのメンバーたちもまたロックという外来のカルチャーに全身を浸しているが、しかし彼らは自民族の文化に対する誇りを失ってはいない。わけてもスミンは自民族の文化、土地に対する思い入れを強く持っており、故郷である台東の村で古くから続く祭祀に参加し、住み慣れた土地の人々と暮らしていくことを望んでいる。
都市と地方、伝統と革新…引き裂かれる環境の中で、それぞれに複雑な想いを抱えながらも、音楽への熱意につき動かされながら生きるメンバーたち。美しい台東の風景と生き生きとした人々を、詩情溢れるタッチで写し出した若木氏の視線はどこか優しく、共感に満ちている。プライベートな手触りを持った、新鮮なドキュメンタリー映画である。
井出幸亮